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京都発大龍堂通信:メールマガジン通巻8568号 2011年9月22日

『ストラスブールのまちづくり』
-トラムとにぎわいの地方都市-


著:ヴァンソン藤井由実
発行:学芸出版社
定価:2,415円(本体2,300円+税5%)
A5・200p
978-4-7615-2518-7

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フランスを代表する環境都市、欧州の元気な地方都市として、世界中から視察が絶えないストラスブール。優れたデザインのトラムに代表される総合的な都市交通政策によってまちの活性化を実現した取組の背景にはどのような考え方があったのか?「人が住みたくなるまちづくり」の全貌を紹介。
京都大学名誉教授・青山吉髏謳カに「推薦の言葉」をいただきました。
[目次]
はじめに
1章 にぎわう環境都市・ストラスブール
1 歩いて楽しいトラムのまち
ストラスブールってどんなまち?/ライン河の向こうはドイツ/ストラスブールの複雑な歴史/欧州機関が集中するストラスブール/歩いてドイツに渡れる橋と素晴らしいライン河岸公園/活気あふれるまちなかの歩行者天国/国際大学都市としてのストラスブール/新しいまちの顔―便利で美しいトラム/自転車利用でもパイオニア
2 ストラスブールも少し前まではクルマ社会だった
衰退する路面電車/「車が多くなりすぎる」と「車を排除してしまう」/フランス人と車
3 トラムへの転換
車中心のまちづくりの見直し/6年ごとにトラムが完成するフランスの地方自治体/今ではフランス22都市でトラムを運行/車と共生する「マルチモーダル」な時代へ/ストラスブールの転換/トラムか無人運転地下鉄か/ストラスブールの先見性/フランス社会におけるまちづくりの課題と交通権
2章 トラムの導入と発展
1 トラム導入が決まるまで―トロットマン元市長インタビュー
マニフェストにトラムを掲げて当選/初代のトラム選択は波乱続き/商店街はトラムに反対
2 総合的な交通政策のもと次々とトラムを導入
5年で最初のA線が開通/A線の成功をふまえてB線工事へ/政権が代わっても工事は続く/トラムを受け入れた市民
3 ストラスブールのトラムの特徴と沿線のまちづくり
まちと調和するバリアフリー車両/トラムの乗り方と料金体系/インターモーダリティとパーク・アンド・ライド/自動車の迂回政策と走行規制/都心の路上駐車スペースを削減/都心の住民と商店への配慮/事故と障害者への配慮/アートを楽しむトラムの駅と沿線の景観整備/トラムと空間設計
4 トラムを運営するしくみと財源
フランスの地方自治のしくみ/トラムの事業主体はストラスブール都市共同体(CUS)/トラムを実際に運営するストラスブール交通公社(CTS)/地方自治体の財源/トラムの財源と交通税/トラムをめぐる法規制/都市交通計画(PDU)とは?/ストラスブールの都市交通計画
5 合意形成の手法「コンセルタシオン」とは?
コンセルタシオンの定義/コンセルタシオンの法的背景/コンセルタシオンのプロセス/ストラスブールのコンセルタシオンの歴史/市民の声
6 行政からみたトラム―マルク元トラム局長インタビュー
トラムにたずさわって20年/トラム局は専門家集団/工事はどのように進むのか/トラムプロジェクトに反対する市民/トラム計画で市民直接投票を決して行わない理由/なぜフランスではトラム経営は赤字でもいいのか/トラム導入をま
ちづくりの起爆剤にする
Column トラムの導入は大気汚染防止に効果があったか
3章 トラムを軸にしたまちづくり
1 トラムを軸にした大型都市整備プロジェクト
「寒くて暗い」イメージだったアルザス/行政主導の大型プロジェクト/空港へのアクセス整備/中央駅の歴史的大改造/都心部広場の整備/トラムの延伸
2 明るく魅力的なまちへの再生
ケラー前市長インタビュー―トラム工事の差し止めと沿線の社会的不安地区の整備/ストラスブール市の文化予算の割合は24%!―パイヨー市議インタビュー/マルシェ・ド・ノエル(クリスマスマーケット)にみるまちおこし戦略と経済効果
3 トラムの商店街への波及効果
「シャッター通り」が存在しない理由/人口と雇用の増加
4 トラムを補完する交通まちづくり
フランス初のカーシェアリング事業/カーシェアリング事業創始者へのインタビュー―まったくエコでなかった一市民がカーシェアリング活動にたずさわるまで/低炭素社会実現に向けての100台のプラグ・イン・ハイブリッド車社会実験/フランスで一番早かったストラスブールの自転車政策/自転車の利用状況
Column フランスのまちづくりをめぐる法制度―美しいまちは誰がつくるのか
4章 環境都市のトップランナーとして
1 リス現市長インタビュー―これからのストラスブール
まちのデモクラシーを謳う新市長/コンパクトシティとエコシティ構想/欧州都市を目指すストラスブール/トラム導入成功の秘訣―自治体の高度な政治判断と地方分権
2 ローカルデモクラシーの深化
「市民のためのまちづくり」に大切なローカルデモクラシー/実地体験型協議を行った「シャトー広場の用途変更プロジェクト」
3 コンパクトシティへの取り組み
フランスの環境政策の基本をなすグルネル法/エコシテ・エコカルティエ計画―ユンド市議インタビュー
4 これからのストラスブールの交通政策
モビリティと交通局長・メヌトー氏インタビュー/フランスとストラスブールの今後の交通政策の動き
Column フランス社会に根付く「アソシアシオン」
5章 住みたいまちをつくる
1 フランス人の生活観と自然観
フランス人のエコライフ/自然と環境保護に向き合うフランス人の生活態度
2 地方のまちづくりを支えるもの
アルザスに帰ってくる人たちの地元愛/みんなが住みやすいコンパクトシティ/ストラスブールでトラム導入と都心活性化が成功した理由/日本のこれから
おわりに
謝辞
参考文献
参考年表
推薦の言葉
 ストラスブールは、まちづくりの聖地のような都市である。このまちは、トラムによって「ドミノ効果」を引き起こし、都市のイメージを連鎖的に向上させ、まち全体の状況を劇的に変化させることに成功した。「この町はトロットマン市長時代に黒から白のイメージに変わった」と言う市民もいる。本書は、1990年代までは寒くて暗いイメージのあるアルザスの大気汚染と交通渋滞に悩まされていた地方都市が、環境先進都市の知的な明るいまちのブランドイメージを獲得していくまでの現実の物語である。
 このまちの素晴らしい成功事例を確かめるために、世界中から、そして日本から研究者、公務員、政治家、企業、学生、市民などさまざまな職業の人々が、立場は違っても、明瞭な問題意識と憧れを持って、人口26万人のフランスの小地方都市にはるばるやってくる。彼らの疑問はたとえば、なぜストラスブールはこのような美しい都市を実現できたのか、なぜ利害が複雑に絡み合うプロジェクトの合意形成が短時間で可能になったのか、財政問題をどうやって解決したのか、なぜフランスのみならずヨーロッパ各地に同じような都市が誕生しつつあるのか、などである。すでに彼らによって多くの専門的な調査結果が報告されているが、日本でのまちづくりの現状をみると、まだ答えは見つかっていないか、実行までには至っていないようだ。
 まちづくりは言うまでもなく、長い歳月を必要とする総合的作業である。まちの歴史、市民意識、財政、政治、文化、技術、経済など、考慮しなくてはならない要素は多く、しかも状況は年々変化していく。したがって、短期間の視察や調査だけで答えが見つかるはずも無く、まして条件が違いすぎる日本の都市に適用できそうな答えを見つけるのは、たとえ専門家でも簡単ではない。
 藤井さんは通訳として、こうしたストラスブールを訪れる専門家たちの調査、視察、資料収集、官庁・企業訪問、会議、インタビューなどの場に数多く立ち会われてきた。私もまた環境省の地球環境研究総合推進費プロジェクトでお世話になった一人である。私の経験では、彼女は通訳の場で、互いの発言の行間にある意味合いを含めて通訳されるので、話の内容がたとえ技術論であっても、その社会的背景までが付加されて相手に伝えられ、結果として異言語間の情報交換は深く広くなる。ヨーロッパ滞在30年間の彼女にしかできない貴重な情報の変換作業である。そして、多数の日仏専門家間の討論やインタビューの内容は、自然な成り行きとして、個々の専門家以上に中間媒体としての彼女の中に蓄積され、やがて体系化されていったことは想像に難くない。したがってそれぞれの専門分野を越えて、ストラスブールのまちづくりを総合的に語るには、藤井さん以上の適任者は見つからないし、彼女が書くべきなのだ。
 ストラスブールのまちづくりやトラムに関するこれまでの専門的な研究と比べ、本書が際立っているのは一言でいえば「まちづくりの物語性」にある。たとえばアルザスの歴史や文化、コンセルタシオンの詳細な記述、社会階層の融和性、フランス人の生活感などについては、単なるまちづくりの専門家には書けそうにない。本書を書くにあたって、彼女はトラムの立役者であるトロットマン女史をはじめ、歴代の市長や行政マンに直接インタビューして、まちづくり過程の本音を聞き出している。この当事者のリアルな実体験や彼女の綿密な調査が、長いヨーロッパ生活と有能な通訳としての経験によって活かされて、ストラスブールのまちづくりの臨場感あふれる物語ができた。ストラスブールの元トラム局長であるマルク氏は、「まちはどんどん変化していく生き物です。トラムはそのまちの活性化を助ける一つのエレメントなのです」と語っている。生き物としてのまちを、30年かけてまちづくりの聖地にまで育てた秘訣は、一つや二つの政策にあるのではない。トロットマン女史やケラー女史のような強いリーダーシップを備えた政治家の下で、国内交通基本法などの法律、地方自治制度、交通税などの財源制度に支えられて、有能な専門家集団が機能し、市民意識が徐々に進化していく長い物語全体が答えなのだろう。
 本書は綿密なフィールドワークに裏付けられたクロニクル付きのまちづくり専門書であると同時に、読者にストラスブールに行ってみたいと思わせるにちがいない優れたノンフィクションでもある。
[京都大学名誉教授 青山吉饐



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