HP内の目次へ・検索もできます!  『京町家の遺伝子』-京町家の機能と意匠の魅力を建築家が語る-

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京都発大龍堂:メールマガジン通巻4532号


『京町家の遺伝子』
-京町家の機能と意匠の魅力を建築家が語る-


著:山本良介
発行:学芸出版社
定価:2,100円(本体2,000円+税5%)
四六版・240p
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京都の町家が景観に配慮しながら脈々と受け継いできた犬矢来や虫籠窓。これらは美しい町並をつくる要素であるだけではなく、人々の生活や大工たちの営為を伝える、1200年の都市の記憶である。
本書は、建築設計に携わりながら、京都が京都であり続けるための<遺伝子>を追い求めた建築家が語る、京町家の魅力を紹介したものです。建築家ならではの視点で捉えた写真は、読むものに楽しさを与え、また京町家の魅力を理解する上でたいへん効果的に使われています。
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また、建築家の使命は先人達が培った“京都のDNA”を基盤に熱情ある君のスパイスをいかに組み入れ、新しい京都を創るかが現在に問われているのではないでしょうか。(yy)
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<はじめに>
どうしても人々に伝えたい、語りたい……。
21世紀に入った今、「なぜ京都」へと多くの人々が訪ね来るのか。
何しろ年間五千万人の人々がおとずれる。中学生の時、修学旅行でバスにゆられ、眠い目をこすりながらお寺見学。京都は寺ばかりの町だったと覚えている。それから幾年月が過ぎた。「京都」へ行ってみたい。お金とデジタルカメラをジーンズのポケットに突っ込んで、ゆっくり、のんびりそぞろ歩き。「爛漫の桜の季節」にする、それとも「真夏の超蒸し暑さ」体験に、それより「連山紅葉でくれなう秋」。これぞ京都の「底冷え京寒」。チョット一杯熱燗をいただけることを楽しみに。わいわいがやがや女性たちの旅がスタート。歩いて歩きまくっているうちに「京の洛中」に入り込んだ。「チョット見て」格子造りの京の家が建ち並ぶ。これが京町家、フムフム、何はともあれブラリと街歩き。格子越しに内装がみえる「イタメシ屋」。ヘッ「京風中華」に「フランス料理店」もある。有名な油取り紙屋に、京漬物の西利さん。アッ「一見さんおことわり」のお茶屋さん、ここが若い人たちで年がら年中、列をつくって待つ「都路里」さんか。修学旅行で体験した京都となんだか違う。歩けば歩くほど「新発見」。露地から入って、うまいこと露地裏に抜けた。「ここは一体どこ」。露地に入って廊地へと……。時間がたりない。またたく間に時が過ぎて、もう夕食。先程の露地町家のフランス料理店に行こうか?たしか値段も手頃。で、京の一日が過ぎた。「それではまた明日」……。
「四十、五十は洟垂れ小僧、六十でまあまあ、七十歳でやっと建築家」といわれる建築の設計界。納得のいく建物を設計したいと製図板にへばり付く。まるで人間蒲鉾になったように図面を描く。「洟垂れ小僧」で終わらないと思いながら……。何としても自分流の建物を、出来れば「日本がみえる建築」を、しかも「日本人建築家しかつくり出せない」建物を設計して世に問うてみたいと思いつつ……。1990年、僕が四十五歳の頃、建築界、デザイン界ともポストモダニズムが隆盛を極め、ポストモダン建築という意味不明の建物が乱立。こんなもの日本の建築ではない、とブツブツいいながら……。日本には「日本の建築考」が……。かえりみると僕には京都があった。
日本の建築文化の真髄、きっと「京」にあるはず。京の建築、京の町並みを知ることから始めようと一念発起、お坊さんの修行、「托鉢」のつもりで、京・建築の撮影行脚を始めることにした。はや15年の歳月が過ぎ、いつしか二万枚のスライドが棚いっぱい。スライドとにらめっこするうちに「京の不思議」がみえはじめた。まさに人間のDNAと同じように1200年の歳月を経た「京の遺伝子」のようなものがあって、人から人に受け継がれ、わが国の歴史を満載しつつ、今日を迎えているように見え始めた。かつて、「京都―建築と町並みの〈遺伝子〉」と銘を打って、建築界を目指す若い建築家の卵たちに伝えたい、そして西暦2000年の京の町を写真で残しておきたい。その時々に思ったことを文章で、と思いその本を建築資料研究社から発刊して頂いた。それから早や6年の歳月がたち、セッセセッセと写した写真がますます棚一杯になり、またまた整理をしなければ何が何だかわからなくなる。スライドを「眺め」つ「しかめ」つしている内に、「ちょっと待った!……」。この写真「建築界」の人々に伝えるだけでは「もったいない」。京都へ訪ね来る人たちの参考書にでもなれば、の思いもあって、日頃あちらこちらでおしゃべりをする僕の「たわごと」を織り交ぜて書いてみたい。ここはひとつ京都の出版社の学芸出版社に御願いしてエイ・ヤーで一気呵成に編集して頂いた。
京都で生まれて京都で育ち、1970年「太陽の塔」で代表される日本万国博覧会のため東京へ行き、建築界の大御所丹下健三氏、芸術界の奇才岡本太郎に師事するのだが、ただただ東京は近代都市。空気は「くすん」でいるし、交差点は車と人の洪水で息苦しい。京都の穏やかな地で生まれた僕は大変なショックで、こんな東京「日本でない」の思いで32歳の時関西に帰ってきた。「やっぱり京都やで」。何事もスピードはゆっくりで、言葉は静かで、山があって川があって、何より「空気がうまい」。これぞ日本。この「落ち着いて一日が暮らせる」ことこそが日本人の原点。もうこの地から離れまい、離すまいの思いでこの本を書いた。しかも京都を知れば知るほど不思議なことがいっぱい。その不思議探しにお付き合い下さい。そして、京へ日本人の心をつかみにお越し下さい。
「なんでいまさら京都?」「されど京都」だから。
<目次>
どうしても人々に伝えたい、語りたい・・はじめに … 3
● 平安京と京の七口  10
第I章 京都とは? … 11
京を語るキーワード … 12
撮影行脚を続けている内に、大阪のアトリエを捨ててしまった … 16
京都にとりつかれた馬鹿な建築家 … 18
城壁があるわけでもない囲いの地「京都」 … 21
なんともうらやましい職業保護法「座」 … 23
● 座マップ  24
延々と続く朝廷と京 … 26
男の花道 島原遊郭 … 30
数えればきりがない、説明するには頁がない … 34
京都の町と一言で言わないで … 40
● 鳥居本・嵐山デッサン  48
歩いてみなければわからない家並みの仕掛け … 50
京の町並みをつくる遺伝子発見 … 53
● 新町通デッサン  56
建築の遺伝子を洛中洛外図にみる … 59
第II章 京町家の遺伝子たち … 63
1 犬矢来 Inuyarai ・ 家・塀の足元をばっちり決める … 64
2 竹矢来 Takeyarai ・ たった二、三本の竹 … 70
3 格子 Koushi ・ 詩情あふれる格子の妙味 … 76
4 簾 Sudare ・ 建物を変身させるにはもってこいの特効薬 … 84
5 京行燈 Kyo Andon ・ 動物の本能、明かりを求めて … 92
6 下地窓 Shitaji-mado ・ 外界の気配、内界の詩情を表現 … 98
7 暖簾 Noren ・ 一枚の布が伝えるメッセージ … 104
番外編 地蔵尊・ 町のあちらこちらに祀られる地蔵尊 … 110
8 忍返し Shinobi-gaeshi ・ 泥棒との知恵の合戦 … 114
9 踏み石 Fumi-ishi ・ 配石の妙味 … 120
10 看板 Kanban ・ 京の芸術を見たければ看板をみよ … 126
11 京門 Kyomon ・ 門のことなら京都におまかせ … 132
12 物干台 Monohoshidai ・ かつて物干台は社交場であった … 138
13 京塀 Kyo-bei ・ あらゆる素材を駆使して数寄心旺盛 … 144
14 路地 Ro-ji (廊地・露地)・ 廊地にみる京の情緒 … 150
15 虫籠窓 Mushiko-mado ・ 虫籠窓飾り(蒸子格子) … 156
16 蔵 Kura ・ 京の蔵破りほどおもしろいもの他になし … 162
17 出窓 Demado ・ 効果技有りで一本獲った。勝負あった。… 168
18 注連縄 Shimenawa(藁茎・標縄・七五三縄)・捻縄一本に神が宿る不思議な縄 … 174
19 ショーウィンドウ Show window ・ 人寄せ逸品展示ボックス … 180
20 バッタリ床几 Battari-shogi ・ 棚でもなければ椅子でもない妙なはね台 … 186
21 瓦 Kawara ・ 屋根こそ京の命 … 190
22 鐘馗さん Shoki-san ・ 短足のにらみの像 … 196
23 京卯建 Kyo-udatsu ・ 男子出世の証に卯建を上げる … 200
番外編 祇園祭 ・ 一言千年、京では日常茶飯語、ああ恐ろしや … 206
まだまだある遺伝子たち ・ まとめ書きして申し訳ない。お許しのほど …211
家の中にも遺伝子がいっぱい ・ 豊臣秀吉の地割が京の遺伝子創造の元 … 215
京町家断面デッサン 216
生活にもたくさんの遺伝子がある … 225
Column 住む町家から使われる町家へ・ すでに取り壊した人大損の巻 … 228
だからどうする遺伝子たちを … 232
まだまだつづくのだが・・おわりに … 236
<おわりに>
まだまだつづくのだが……。
45歳から始めて、18年の歳月をかけて、「京の建築」を追いかけて来た。過去の人、すごいことを次から次へと考え出し、みごとな京都をつくって来た。2006年を迎えた今、働きすぎに働いた日本国中の中高年。それに学生、若い女性たちが、京の地図を片手に歩く姿をみるにつけ、先人たちの偉業に感謝する一方で、これ以降の京都どうする、どうなるのと心配を半分持ちながら、撮影をつづけた。が、建築家山本良介もとうとう63才になってしまった。何とか、72才まで頑張って、次は「京の四季」。「京の職人たち」「京の色」をも写真に納めてみたいと、また新たなる思いを持ち始めたが、京の建物で18年かかった。しかもまだ志半ば。「京の四季」に10年。「職人たち」は3年、「京の色」は8年程はたっぷり掛かるだろう。ある程度、平行してやってみるとして、最低20年の歳月が必要で、時に「さぼる」「くたびれる」「雨や風」、歳をとって、よぼよぼの30年……92歳。
気持ちに「気」を送っても効かずとあれば、あちら、こちらのよい薬屋を訪ね、「神」「仏」に願かけて……何んとかならないのと……。遠い見はてぬ空ごとを、思いつつ2006年の夏、8月16日、みごとに点火。真っ暗闇に灼熱の色、「大」の文字、これこそ京の色。やはり「夏の京」によく似合うと。色の探索も面白そう……。四季を知って、色を知って、職人たちを知らなければ、京を語るに手はずは整わない。本当の京都の建築をつくる遺伝子も完結しない、と思いながらも、大変大変と……。それとも、もう一度生まれ変わって、継続するかと思ったりしているのだが、それ以上に魅力的なものがあって困っている。出来れば、次の世は「京の食べ歩き」を希望したい。うまいもの食べて、飲めない酒に酔いながら、仲間と「もういい」と思うほど語りたい。当然、金色の鱗雲の間からもれる仲秋の名月。ちょうど、「時」が良く、大沢の池に金鱗が映る、酒を飲みつつである。「アッ」これも「京の色」…。
たわごとをいっているのだが、なにはともあれ、死ぬまで頑張ってみることにする。この本を編集するにあたり学芸出版社知念さんに、すき勝手放題を申し上げた。また、この本の企画構成に僕のたわごとを編集してくださった山本剛史さん、実にお世話になりました。お蔭様で希望通りの「京の建築の遺伝子」がまとまりました。たぶん、多くの人たち、フムフムと読んで下さっていると思っています。この場をおかりして御礼申し上げます。長い間のお付き合い、皆様有難うございました。[京を語る建築家・山本良介]



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