![]() ≪蜻蛉羽(あけずば)織展≫ ―上原美智子・織りの世界― 日時:2001年9月15日(土)〜10月14日(日) 10:00〜17:00 休館日:毎週月曜休館 (但し、9/24・10/8は開館します) 入場料:一般600円高大生500円小中生300円 主催:思文閣美術館 京都市左京区田中関田町2-7 (百万遍交差点西100m) TEL: 075-751-1777 後援:京都府、京都市、 京都府教育委員会、京都市教育委員会 ●講演会とミュージアムトーク● 「私にとって織ること」 講師:上原美智子 9月16日(日)14:00〜15:30 |
『あけずば織・糸の行方』
今井陽子(東京国立近代美術館 研究員) 畳まれていた状態でさえ、きわめで軽い薄ものであることは自ずと察知できた。が、重なりあう層を解く作業は延々と続き、二枚から一枚へと、ようやく本来の姿が開かれたとき、布は、空気を孕んで、ゆっくりと軌跡を描いた。眼に映らない、しかしそこに在る何か≠約束する瞬間、そんな風に感じたことを今でも覚えている。
上原が使う糸は、もっとも細いもので3.7デニール。蚕がはきだしたのとさほど変わらない、といえば、あるいは、その細さが想像つくだろうか。織り上げる前はいかにも頼りない状態であったのが、布となってみたときには、ふんわりとした柔らかさのうちに、しなやかな強さがもたらされる。こうして生まれた風合いに、ひとが、布に求める機能が体現され、私たちはそれを、触感というきわめて直接的な感覚によって享受するのだ。が、ここにある布一枚に託された意味は、生活の実際的な側面からだけで量られるものではない。沖縄の古謡「七よみとはてんかせかけて置ちょて 里が蜻蛉羽(あけずば)に 御衣(んしゅ)ゆしらね(幾度も幾度も細く糸を綛いで置いて、愛しい人のために蜻蛉羽のように美しい衣装を作ってあげたい)」から名を受けたこの織りは、一枚の“布”を構成する糸の動きそのものが、上原の造形思考を辿る道筋なのである。 高らかに自我を謳いあげるのでもなく、またただ物質性によって代弁させるのでもない。極細の糸を切らないように張り、目が詰まり過ぎず、しかし布として成立させるためにぎりぎりの呼吸で静かに打ちこむ。外在する生成の理路に、作家の内面に募る創意を重ね、両者が歩みをひとつとした次元においてのみ可能となるかたち。使用する糸が細くなり、布が薄くしなやかさが増すその都度に、視点は目の前の機を越え、より高みを指していく。提示された布を、さてどのように扱うかは私たちに委ねられている。そこに、光や風、日々移ろうそのなかで行き交うさまざまな事象を見出し、さらに背後に見え隠れする本質の予感に導かれることもあるかもしれない。そのはかなげな趣きとはうらはらに、あけずば織は、確かな意思を宿して、使わずとも─たとえ使ったとしても─存在し得るひとつの造形を志向するのである。 |
問合せ:思文閣美術館 京都市左京区田中関田町2-7 TEL: 075-751-1777 交通:京阪出町柳駅から徒歩5分 京都駅から市バス17・206番 四条河原町から3・17・201番 百万遍下車 ※駐車場はありません お車でのご来場はご遠慮ください |