直近・京都建築事情(0)


TRD通信通巻19号

話題騒然!
建築家若林広幸氏最新作
「毎日新聞京都支局」
-新たなる京都の一建築物へのオマージュ-
 

TRD情報部のK.T氏が取材をして来ました。

新たなる京都の一建築物へのオマージュ

  9月14日 (火)
"いきさつ"
夏も終わりを告げ、足早に嵐山の向こう側へ沈んだ太陽を誰が咎めることができようか? 
今夜は途切れがちだが、低く立ち込めた雲を孕んだ紺色の夜空が帰途を不安にさせるには必要にして十分な様相を呈していた。だが今夜は帰る前に寄り道をしなければならない。
完成を目前に控え、メジャーどころのプレスリリースを前に、及ばずながらもこの新しく京都に出現した建築物の報告をすることとなった為で、今日は朝からデジタルカメラをバッグに詰め込んで意気込んでいたからに他ならない。紹介する建築物はは、河原町丸太町を50メートルほど上った東側、若林広幸氏によって設計された毎日新聞の京都支店の新社屋である。

"ファースト・インプレッション"
〜京都の行く末を捉えんとする巨大化したデジタルビデオカメラ〜
 目指す建築物までの私のアプローチは、地球環境を考慮して排気量を50ccにまで切り詰めた小型モーターサイクル"エントロピィ号"によって勤務先のビルを後にして、一路目的の建物に向け出発した。(一旦北上して、今出川通りに進路を変え、京都御所を回避して目標物を捜し当てるために出町柳に出てそこから南下した。勿論警察なんか怖くないけど、制限速度は地球にやさしい30km以下とした。(ただし目測))
依頼主の大龍堂社長の話では、河原町丸太町の交差点からすぐと言う事もあって、荒神口までは快調にパス。そこから慎重に左右をルーペで拡大しながら探そうとも思ったが、その必要性も無く行く手左側上空に楕円形の明かりを掲げたビルをいとも容易く発見した。ましてやビルの側の歩道には、工事中を誇示せんが為の黄色いフェンスが、食べる前のショートケーキよろしくセロファンのごとく取り巻きをなしていたのでまず間違いないだろう。
早速エントロピィを歩道に停泊させ、デジタルカメラの電源をオンにしつつ、液晶のファインダーと肉眼とで北東側からのファサードを査定した。日も落ちたので詳しくは判りかねたが、南側の棟と北側の棟最上階とおぼしき階で縦方向に長い楕円のシリンダーが南北に貫いており、単調になりがちな長方体のコンクリート打ちっぱなしの躯体を特徴づけながらも連続させるのにひと役かっている。
南棟は北側のそれより半分以下ほどと小ぶりで、外壁も窓などの装飾が欠落しているが、反して北側のそれは表情が豊かであり、通りに面した一階は空港の公衆電話スペースを思わせる3mはあろうかと思われるコンクリートのパーテーションでガラスのショーウインドウ斜めからの視界を見事に遮ることに成功している。2階から上の階は、京都の町屋建築に見られる木製の縦の格子でべランダの防護柵を施してあり、外見上の特徴を醸し出していた。
以上外見上の大まかな、かなり端折った説明ではあるが、日も暮れていた事もあり勘弁していただきたい。詳細は後日の取材に託す。
わたしの初見による感想は、巨大なパスポートタイプのハンディカム・デジタルビデオカメラみたいだなと感じた。それは最上階に貫通したシリンダーのしわざである。
条例によって京都は高層建築を制限してある事もあり、競合するような高い建築物があまり隣接していないこともあって、北側面のガラスブロックがあたかも京都の未来または現在と過去を捉えんとするビデオカメラのレンズに見えてしょうが無かった。しかも新聞社の社屋ときているから意味ありげではある。今夜はそんな思いを抱きながら帰途についた。

追伸 エントロピィを始動させてすぐ、道路向かいの古本屋のおばさんがやはりこの建物を見上げていた。一旦通り過ぎたのだが、思い直して引き返し店舗に引っ込まれたにも拘わらず、感想を聞いてみた。
 それに依れば、格子の作る景観と建物内部に及ぼす光の刺し具合について感心を持たれている様子であった。もちろんお礼にとまでは言わないが、みすず書房刊 ノーバート・ウイナー著の「人間機械論(改訂第二版)」を含め3冊ほどめざとく発見し購入したことは言うまでも無い…。

 9月18日 (土)
 "強迫観念"
夏も終わりを告げた……と、誰もかしこも言うけど……台風崩れの熱帯低気圧2個のせいもあって、蒸し暑く厚ぼったい雲が……熱心な(?)撮影の意欲の腰を折っていた。しかし人生は果敢なく短い。やろうやろう…が後の祭になった事例は星の数。「いいですよ」と快諾の裏にはやっぱり努力も必要かと…トホホ。別件で大阪に用事があって荷物をたくさん抱えているにも拘わらず、バックをもう一個追加してデジタルカメラをねじ込み出発。勿論、お伴はエントロピィ号である。前日明石に上陸し、関西地方を横断した台風崩れの暴れん坊将軍が通り過ぎたせいもあって、久ぶりの晴れ間。夏のぶり返しだ。お陰で撮影ができる訳だが…。

 "幸運そしてまた幸運"
現場に到着し、大阪での待ち合わせに間に合うようにと京阪の特急の出発時間を気にしつつ撮影をしていると、施工業者の管理者とおぼしき人物と遭遇したので、かれこれと事情を説明し撮影の承諾を得ようとしたところ、著作権の件などもあるので……と前置きの後に、ちょうど設計事務所のスタッフがきているので話を通してくれるとの有難いお言葉をいただき……しばし待機。しかる後、設計事務所の女性スタッフに、やはりかくかくしかじかなる説明をしていると、偶然にも事務所の…恐らくは責任者っぽい方が、颯爽とレーシングバイクで見えられ、結果的に伝言ゲームのようになった女性のスタッフからの説明を聴かれるな否や快諾をしていただいた。(まことに有難いことです。)さらに良いことは重なるもので、引渡しが翌々日の20日で内部を撮影するなら今日が最後のチャンスだと撮影のお誘いまでいただいた。
一旦は後の取材の待ち合わせが気になって辞退したものの、千載一隅のこの機会を逃したならば恐らく二度とこの様なチャンスは巡ってこないと考え直し、そのとても親切な女性スタッフの案内に従うままにエレベーターに乗り込んで、最上階の7階に赴いた。
 エレベータを降りる際に気が付いたのだが、エレベータドアすぐ横の左右の面は、幅25cm程のミラーがはめ込まれており幾重にも重なる虚像の空間と供にフロアーに降り立つこととなる。これは現代のトロンプイユを解してもいものだろうかと自問しながら……。
最上階はヴォールトを思わせるようなかまぼこ型の丸天井で、形状的には放物線に近い。それがガラスブロックから入射する光によりブロックによって描き出されるグリッドの中にH鋼のクロスが浮かび上がる…しかしそれは神々しさをひけらかすのではなく、意図しなければまるっきりそうも見えなくなるような危うい線で佇んでいるかのようにも見えた。
(このフロアーはホールとしていろいろな催しも利用も考慮されているとの事)7階に続き6階。更に4階に足を踏み入れ幾点かの写真を撮ったのでそれを参照していただきたい。すべてを知っていただくにはやはりこの建物の中にお越し頂くしかあるまい。話は前後するが、前述の施工業者の方にこの建築物のデザイン上の趣旨や用途等について質問をしてみた。 そこで南北に貫通するシリンダーの事についてのお話があったのでここで報告します。毎日新聞の旧京都支社は三条御幸町に現存するが、その最上階もやはりかまぼこのような丸天井なのでその形状を踏襲したと言っておられました。(尚現在この旧京都支社の最上階は若林広幸設計事務所が使用しています。)以 上