旧高戸家住宅の土壁の色彩_かもがた町家公園内にある伝承館と交流館の土壁の色彩_

1727号      1731号


京都発大龍堂:通巻1729号

この書籍は日本伝統建築技術工法を科学的に分析し、その重層の調査結果を解明した、新ジャンルの画期的な提言書である。これで日本の伝統技術「土壁の色彩」は末代まで伝承される。また、著者が故・山田幸一氏と出会い、研究の切っ掛けとなるエピソードや恩師の「命題」も素晴らしい。(yy)

《旧高戸家住宅の土壁の色彩》

_かもがた町家公園内にある
伝承館と交流館の土壁の色彩_
研究代表者:廣川美子 ほか

はじめに

発行:大龍堂書店
定価:2,520円(2,400円+税)A4 130P
4-924726-33-8
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伝統的建築物の土壁の色彩
_京都島原の角屋_
<推薦文 田中 喬氏>
「赤色」の家 ―― 建築家−工学技術者の探索
 青い空、白い雲、緑の木、赤い壁の家、それらを透きぬけていく風のそよぎ……、そこに立ち会う人の口に感嘆の言葉が生まれる。
 京都盆地の夏は暑く、古都の町家は、「夏を旨として」造られている。前-後の坪庭をはさんで部屋が奥深く配置されている。日かげの前庭から日照って暑い後庭の間を涼風が流れていく、自然の理にかなった人工の造作である。
本書の著者は、建築家として、この冷えた気配のゆらぎを全身で体験し、京の伝統的な住まいの真の「いのち」を直観した。庭木のざわめきの風韻に耳を澄まし、五官の共通感覚で、暑気-涼気にじかに触れたのである。場所の意味は深い。――このような「純粋経験」に起動されて、建築家は、科学-工学技術者として、これまでに何年にもわたり、そうした自然-人工の一体化した全体的事象を分析しようと、機器を使って観測し、その成果を数値化、統計処理によって提示した。科学-工学の積み上げられた部厚い成果の前提として、「生きた」意味-価値体験が所在したことは、この著者の表に見える業績の行間に垣間見られよう。
 著者は、他の家の色にも関心して来た。京都の角屋(島原)、一力(祇園)、あるいは金沢の成巽閣(兼六園)など、精力的に調査している。研究の蓄積は重い。

 かような経歴をもつ研究者は、たまたまの機会に、鴨方町(岡山県浅口郡)に建つ「赤色」の家に出会った。備中の国の、三百年をこえて伝えられた旧家が、町の文化事業によって近年修復され、全国でも屈指の歴史的建造物として評価されている。地元の赤の山土(遥照山)を使い、地元の伝統の技術によって復元されたものである。著者は、先ずもって建築家として、この家に立ち入り、息をのんで茫然と佇んだ。建築家は原理を直観する人に他ならない。白の襖、障子とともに、赤色の土壁で縦横に間仕切られた内部空間は、ほの暗い光にしずみ、うす明りの光にうきあがり、赤色の照りかえしに「赤光」に染められている。その人は赤色-赤光のただ中の土壁の間と間をたどり、行きつもどりつして、やがて坐し、文字通りに我を忘れて、この意味深い雰囲気にひたったであろう。その場所は、伝統的時間・空間が現代のそれに蘇生されたところであり、その場の力がその内に留まるべく、研究者をそこに閉じ込めたのである。

 夢想していた建築家は、しばらくして科学者として目覚めた。この場の全体的な気配を最新の科学-技術の手段、手法によって分析的に解明することを始めた。研究は二年間ほど集中して行われた。この間、遠方鴨方町に他の研究者や学生-院生ともども十数回も通い、以下の本文にのせられているような精緻なデータとその解釈とが纏められた。土に関して特に分析された。短期間にかような成果がえられたのは、上に記したような夢想するごとき全身の生きた体験の魅惑が強くそれを起動したからに他ならない。
 
 「赤光」に映える「赤色」の「土壁」の家は、かように深処から探索されている。工学・科学による成果は、詩的な真実に支えられていよう。これらの重層こそが本論の要点である。
<目次>
1章 研究の目的とその背景1
第2章 調査対象概要
2-1 鴨方町の概要2
2-2 かもがた町家公園の概要4
2-3 旧高戸家住宅の概要4
第3章 旧高戸家住宅の土壁の材料と施工方法に関する聞き取り調査10
第4章 旧高戸家住宅の壁土(遥照山山土)の地質学的成因の調査
4-1 鴨方町周辺の地質とその分布の調査11
4-2 壁土の材料特性の調査13
4-2-1 組成分析13
4-2-2 粒度分布、水可溶分及びPH値17
第5章 土壁の表面性状の測定
5-1 蛍光X線分析装置による発色元素の分析19
5-2 デジタル顕微鏡による表面状態の分析25
第6章 土壁の色彩の測色・表色及びCCMSによる再現
6-1 土壁の測色・表色29
6-2 土壁の色彩の再現39
第7章 他の伝統的建築物の赤土壁との色彩比較41
まとめ44
謝辞45
附 1)旧高戸家住宅 文化財指定申請書類及び申請図面47
附 2)粒度分布、水可溶分及びPH値51
附 3)X線強度比とその求め方51
附 4)土壁の色彩のCCMSの構築55
附 5)赤土壁をもつ伝統的建築物の概要61
附 6)伝承館及び交流館の各部屋の土壁の色彩の
L*a*b*表色系による多点測色数値データ69
附 7)伝承館及び交流館の各部屋の土壁の色彩の
L*a*b*表色系による多点測色数値データの頻度分布図109
参考文献119
おわりに121